nakaharafamily

1:25 ドゴーンという音。気がつくと妻がベッドとベッドの隙間に埋まっており、娘はベッドにしがみついている。猛烈な揺れと音、悲鳴。3人でひとまとまりになるも、暗闇の中で何もコントロール出来ない。キッチンの扉が外れて飛んできて背中に突きつけられている。本当に死ぬかと思った。「大丈夫よー」と叫びつつも、ぼくの体はガタガタ震えていた。

1:26 状況把握。昨日と違い停電している。あの重い冷蔵庫が大きく揺れて、入り口を塞いでいた。隙間からキッチンを覗くと食洗機が床に落ち、水が溢れている。確実に昨日の地震より規模が大きいのが分かった。早く逃げよう。

ベランダ経由で壊れた窓からリビングへ移動。床に転がっていたノートPCを見つけて、バックライトをたいまつ代わりにする。部屋の中は昨日よりも滅茶苦茶で、テレビもトールボーイのスピーカーも倒れている。運良くサブめがねが転がっているのを見つけて装備し、2台のあいほんと家のカギ、妻のリュックの回収に成功した。避難経路を確保して寝室に戻り、その辺の暖かそうな衣服、オムツセットを掴んで部屋を出る。あいほんのLEDライトが強力でとても助かった。

1:35 自宅からマンションを出ると、近所の靴屋が倒壊していて絶句。。メガネの無い妻とベビーカーの娘とひとかたまりになって、注意を促しあいながら逃げる。上から落ちてくるモノが無いかと心配だ。近隣の人と声をかけあいながら、避難所の慶徳小学校を目指す。

僕も妻も興奮状態になっているのか、声が2倍くらいの大きさになっていた。脳内でコールドスタンバイしてた、非常時用のサブシステムに切り替わったんだろう。ガタガタしつつも、わりと冷静だったのを覚えている。

1:50 慶徳小学校に着くと、昨日より沢山のひとで溢れていた。体感した恐怖の影響か、緊張感が段違いに増している。娘が放心状態でお人形さんみたいになっていて心配だ。怖いに決まっている、お父さんも怖い。

消防車が入ってきて、消防士の方がスピーカーマイクで状況についてのアナウンス。建物内での避難も可能だが、安全面としては屋外を勧める。各自の判断に任せる。との事。地震から30分も経って無いのに、一流のプロが準備を整え、陣頭指揮をとってるのは凄い事だと思うのよね。彼らにも僕と同じように家族が居るわけで。どうするか迷ったが、娘の手足が冷たくなっているのが気になり、昨日と同じ体育館に避難する事に決めた。大丈夫、ここいらの建物の中で一番丈夫に違いない。と、自分に言い聞かせる。

2:30 周囲の親切な方から、マットと毛布をいただき寝床を確保。本当にありがたい。

ネット経由での情報収集パトロールをしてみると、阿蘇大橋が無くなってるとか信じられないニュースが。。竜神橋といい、阿蘇神社といい、熊本人のアイデンティティが奪われていく感。何も言えない。。被害は極めて甚大であり、益城と並んで熊本市内も危機的状況であることを認識した。とりあえず、ここにいることは得策ではない。そう思い実家の芦北に避難することを決断する。

5:00 芦北に戻るためには、自宅マンションに戻り、足となる車と最低限の荷物を取ってこないとならない。妻がとても心配そうだ。

5:30 朝日の照らしだした自宅マンションは、シルバニアファミリーのお家を両手でシャッフルしたような感じになっており、思わず笑ってしまう。倒れたテレビとスピーカー。MacBookAirもねじ曲がっている。昨日の片付け作業がリセットされたように本と書類が散乱。台所では、所定の位置から大きく動いて、寝室への道を塞いでいた。ベランダに回って逃げられなかったら、大変なことになっていた。ガスコンロもホースを引っ張るように落下。炊事の時間帯でなくて本当に良かった。揚げ物なんかしてた日には、大やけどではすまない。間違いない、僕らの家族は本当に運が良かった。

なんとも言えない気持ちになったが、留まることは危険。事前にリストアップしておいた荷物を回収する。

6:00 今のうちにガソリンを入れておこうと思い、浜線バイパスの24時間ガソリンスタンドに向かう。玉泉院の屋根の上のオブジェが倒壊している。。。あまりにもデストラクションな光景だ。皆考えることは同じなのか、スタンドには行列ができていた。待ち時間30分。満タンにするのアレかと思い、芦北に帰るのに十分の量を補給した。

7:00 自宅マンションに車を置き、妻と娘を迎えに再度慶徳小学校へ。その途中、あいほんからいつもの目覚ましアラームのジャック・ジョンソンが流れてきた。いつもの日常とはまるで違う朝。だけど、一番大事なものはちゃんと手の中にある事がわかり、ちょっとだけ泣いた。

7:30 セブン-イレブンでかろうじて買うことが出来たスイーツとコーヒーで朝ごはん。理不尽に日常をすり替えられると、意地でも日常のルーチンを維持したくなる。地震が来ようが、甘いものとコーヒーは正義である。

8:20 一家揃って芦北に向けて脱出開始。名前をつけるのであれば、グレート・エスケープ大作戦。睡魔と戦いつつ、国道3号線を下る。九州道は橋が落ちてしまっていて、道を塞いでいるらしい。三菱自動車のビルが派手に転んで、今にも崩落しそうな感じになっている。今思うと、三菱自動車踏んだり蹴ったりだなあ。

11:30 3号線は宇土ぐらいまでがすごい渋滞。道路がボコボコになっていて、みんな自然とスローダウン状態になっていた。鏡線が途中通行止めになっていたので、県道14号線に移り、3号線に戻るという回り道を強いられる。高田くらいまで来ると、だいぶ日常的な風景に戻りつつあった。最後のラストスパートということでセブンイレブンでコーヒーを投入。流通が途絶えているせいか、さほど地震の影響を感じない八代市でも、商品の品揃えはだいぶ悪くなっていた。

12:30 芦北の実家に到着。両親が車のところまで笑顔で出迎えてくれている。娘は「なんで急にじいじばあばの家に来たんだろう?」と不思議そう。自分たちが体験した震度7✕2 を語りながら、お昼ごはんを食べる。親父から勧められたビールを流しこんだら、あっという間に緊張が緩んでいく。途端に睡魔が襲ってきて、夢も見ないほど深い眠りについた。